Novel
別に普段からあんなに無我夢中で、自転車で駆けたりなんかしないわ。あの日は、たまたま、
嫌なことがあったから。じゃなかったら、重力が普段より少しだけ曖昧になっているこの施設で、
思い切り速度を上げて駆け出すことなんてしない。
でも、あの時、一瞬だったけど、駆け出している時に綺麗なものをみつけたの。輝きの雰囲気も見えて、
その気持ちまで思い出せるのに、肝心のなにが綺麗だったのかが忘れてしまった私。
あの壁にぶつかるまで、一体私は何にこころを奪われていたんだろう。
とりあえず、この大きなこぶをよく冷やすようにと、先輩に怒られたことをよく覚えているのはとても皮肉だ。
#1 あとがき
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初めて交わした言葉、初めて通い合ったきもち、なにもかもが初めてだった。
でも、あなたはどうだったのかしら。
こんな通い合い初めてだったのなんて、そんな無粋な質問でこの感動に隙間風を入れたくなくて。
わたしより少しだけ小さなあなたと、こうしてしばらく会話になっていない穏やかなやりとりを
こころ静かにひっそりと、ひとり喜びを感じて微笑んでいるわたしはおかしいのかもしれないけれど
だけど今はそれを許せる気がした。
#2 あとがき
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今思うと、あれは私が私に賭けた試験だったのかもしれない。
どんな中でも、あなたは素直なひとを大切に出来るの?と、自分のなにか大切な気持ちを賭けて。
負けることなど考えない私のこころは、勝った後に負けた時の恐怖を感じるくらい真っ直ぐだった。
なぜだか今は、それがことのほか面白くてたまらなくて。ひとり、思い出しては笑ってしまった。
#3 あとがき
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不器用で堅物だったあのひとが、どんどんわたしの前でころころと、顔色を変えていく。
今ではそれが、食事を取るのと同じくらい生活の糧のように思えてきしまって。
だからつい、近寄って顔をみつめる。いつも恥かしいのか、顔をしかめて目を逸らしてしまうけれど。
わたしはうれしくてたまらなかった。
#4 あとがき
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世界中のひとに必要とされるより、なぜか、あなたに必要とされてみたいと。
そんな馬鹿なことを最近、星空を見ると考えるの。
わたしは少し、どうかしてしまったみたい。
#5 あとがき
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ねえ、あのそらが見える?
あのそらには希望が浮かんで光ってる。
ねえ、輝きが聞こえる?
あのそらには輝くものが誰かに伝えている。
恐れることはなにもなし、わたしはこころから生きている。
悲しむことはなにもなし、わたしはこころから穏やかなときを思い出せるようにと願っている。
先に行った私はあなたを待っている いつでも出会いたい でも まだだめ まだもうすこし。
あなたの悲しみが癒えたそのとき現れるわ あなたの前に星粒を集めて話すの。
私達の素敵な出会いの物語を 何度も笑って何度もあなたと・・
私達の素敵な出会いの物語を 何度も笑って何度もあなたと・・
#6 あとがき
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世界の誰か達は、いったい、なにをもたもたしているのかしら。
恐れている暇なんてないのに、いつも影の気配におびえながら過ごしてる。
新薬が必要?いいえ、薬よりもあたたかい言葉を残すことに力をそそぐように。
新しいパワードスーツが必要?細菌兵器を防ぐくらいなら、強い免疫がつくようなおいしい食べ物を開発すれば良い。
言葉がこころの隙間に入って、その隙間から私たちを励まし、病気の進行を遅らせてくれる。
おいしい食べ物が、私達の血となってやさしいバリアで満たしてくれる。
そう、まるで彼女のような。美しい人にだれでもなれるはずなのに。
それは特別なんかじゃないの、誰でもなれる可能性がある能力なのよ。
私はそこからあなたを特別だと思ったことなんて一度もないの。あなたそのものが、特別なのよ。
いつか、この世界で声をだいにして言えるそのときまで、この言葉はきっと私の胸のなかにあるはず。
#7 あとがき
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よく自分が消えてしまっても言えないことがあると、だれかは言うけれど。
話題にでてくるたびに、そんなことはないと。ずっと思っていた。
相手にさえ、伝わらなければ、言ってしまっても意味はなにもない。そう思っていたから。
しかし、今はどうだ。この私のありさまを見て、過去の私はきっとあきれていると思う。
はじめて触れ合う場所が星空のしたで。そんな詩集を読んでから、ひそかに憧れを抱いていた自分。
私は今、言葉に出てきてしまうくらい胸が高鳴っている。
でも、決してことばにしない。たとえ一人でもことばになんか今はできない。
だって、言ってしまったら今度は自分から触れてしまいそうだったから。
#8 あとがき
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きれいなそらを、もっと近くで見たかった。
あのそらを、もっと近くで感じたかった。
でも、それを優先していたのは、ほとんど過去のこと。
わたしは彼女と、わたしはあの子と、ひとつになって色々なものに向き合いたい。
彼女達を一番近くで見ていたい。彼女達を一番そばで感じていたい。
いつ、胸にしまってある望みの優先順位が変わったのさえ気づくことも難しいこの戦いが。
いずれ終結する願いを。今はただ、願いながら向かって生き続けよう。
#9 あとがき
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意識がふらつくようなめまいに、襲われたことが以前にもある。
はじめての宇宙、衛星に浮かぶ学校の見学に行ったとき。
あの星と暗闇に吸い込まれそうになった。あまりに美しかったから、あまりに静かだったから。
ことばよりも、身体の感覚が奪われる瞬間を。
まさか、ウィンクひとつで果たされるなんて。あのときの私はにやりと苦笑して、鼻にかけるだろう。
夢中になる馬鹿ばかしい自分の背中より、目の前の熱い目線をとっただなんて。
#10 あとがき
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今なら堂々と共に言える。
私達はこの宇宙に漂うことをやめて、あの母星に帰っても、当たり前のような生活が取り戻すことができる。
それはきっと、なにげない彼女が放つ、ひとつひとつのやさしい生活を感じているお陰。
少しでも私がこちら側によると、彼女は決まってこういうのだ。
洗濯のしわも、油物の食器も、少し汗ばんだ手袋も。すべて汚れたら新しいものは手に入るけれど。
落ちない落ちると、洗ったりなど面倒なことをしながらする会話が、いずれ私達を取り戻し、
なんでもない会話の間に、穏やかな笑顔をしまって置ける。大切に忘れないように思い出すことができるのだと。
#11 あとがき
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何も知らなかった。
それがこんなに恥ずかしいことだなんて。
いいえ、触れ合うことがこんなに恥ずかしいわけではないの。
触れ合ったあと、ごまかして笑ってみつめてしまうくらい、
鼓動の動きが聞いたこともないくらい高鳴っていることを知られたくなくて。
そんなこと、この口がへのじになっても言えないけれど。
あなたが照れくさそうに、目をそらして離れてくれなかったら、わたしは卒倒してしまいそうだったから。
みつめてしまってごめんなさい。だってわたし、こんなにあなたを想っているなんて今頃気がついたんだもの。
#12 あとがき
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案外、告白なんて簡単なのもの。
たとえ先に進めなくても、それを理由にしなくても。
相手にそれを押し付けない勇気さえ生まれて、相手の幸せを本当に願うことができたらいつでも伝えられる。
伝えたあとのこの晴れやかさを、先に進んだあの二人はまだ感じたことがないみたい。
互いを特別だと認識して、互いを必要にしている二人のはずなのに。
それとも、その想いを通り過ぎてしまうと、好きよなんてことばすら、必要でなくなるのかしら。
#13 あとがき
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恐れを抱いたら、うつくしいものを眺めれば良い。
痛みを覚えたら、生きていることを感じれば良い。
愛に飢えたら、ひとを愛したら良い。
いつだって、どこだって、あなたにそれをみつけられるから。
私は恐れも痛みも愛も、何も失わずに生きていける。
#14 あとがき
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ただいま、どうしたの。泣いているじゃない。
わたしは帰ってきたわ、不安でしかたがなかったの?
顔をあげて。さあ、機体に乗って退避しましょう。
まあね。少し危険な施設だわ、色々な薬も取り扱っているし。
副作用?もう、私を誰だと思っているの。
念のため宇宙服を着てきたのだけど・・・
どうして、この服は誰かを抱きしめられるように進化してないのかしら。
ねえ、もう泣かないで。その目を見せて。
#15 あとがき
Novel
みんな、立ち止まらないで!
勇ましく敵を攻撃するため飛んでいったクルーのたちより。
生き抜こうと、戦い抜いたこの前のみんなのほうが、ずっと気高く見えたの。
私はもう一度、本当の勝利をこの手にしたい。
気高い勝利を感じて、それを感じたみんなの背中をみつめていたい。
前に見える火花に従わない。立ち上がりたいと思った、いちばんきれいな自分の理想を貫いていたら。
きっとまた、真っ直で気高い誇りがついてくると思うの。
#16 あとがき
Novel
川を流れるみたいに、漂うみたいに。
運命に流されても、この気持ちは変わらない。
ただ、あなたをあいしてる。
たぶん、それだけでほとんどの道は歩けるから。
きっといつまでも、私とあなたの幸せを描いていける。
#Finish あとがき
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空の陽射しを仰ぐことが当たり前で。
夜の星明りを見上げることがあたりまえで。
そばに握れるあの手があるのがあたりまえで。
みつめていても、みつめていなくても。
必ず最後にはわたしを信じてくれるという気配を感じながら、過ごす日々が当たり前になっていく。
ねえ、神様がいるんだとしたら。こんなに幸せなわたしたちをみちびいてくれてありがとう。
あなたにこころからそういいたいの。
わたしたちを最後までみつめてくれて。
Merci beaucoup!
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