「近くの衛星施設に急患受け入れを申請して、通ったわ」
「どこの機関?」
「どこかはわからないけど、聞き覚えのある声だった」
「まさか、ジュエル?」
「あ、そういえば・・・・。もう、借りができるなんて・・・・悔しいわね」
「今度は私達がお礼を言いたくてたまらなくなりそう」
「あの人に?それ、なんの冗談?」
「ジュエルはああみえて、とても激しい性格なのよ」
「ふうん・・・」
「船の電圧は維持できそうね」
「ええ、こちらの暖房や照明をできるだけ落としているから大丈夫」
「軌道はあっているみたいだし・・・くしゃみなんかして、ほら、寒いからこれを着て」
「また宇宙服?わたし、これ好きじゃないわ」
「凍えてしまうわよ、さあ」
「あなたも変わった人ね。クラスメイトに、出発以外は、護衛を頼まないなんて」
「飛び出してしまえば、あとは自分の技量で防げると思ったから」
「さすが、わたし達の部隊長、かっこいいわ」
「助けは求めるわよ。でも、後悔のないように彼らのやりたいことを貫いてほしかったから」
「ほんと、立派なひと」
「あの人たち、撤退していくわね・・・」
「いい加減飽きたんでしょう。攻撃しても、スカイクルーは玉砕してこないから」
「ねえ、マーリー。あの時の歌をうたって?」
「イヤよ」
「だってカレッタには歌ってたわ」
「嫌よ、絶対嫌だわ。ちゃんとわたしを見ていてくれるじゃない、そんな人に歌うなんて」
「あれは自国のお祈りなの?」
「笑わない?」
「笑わない」
「自分で考えたの。あたしは特定の神様を信じてない。
それでも、どこかで亡くなった人の見えない気配がわたしたちを見守ってくれてる気がするから」
「霊感みたいもの?」
「あら。詩集を読む夢見がちなわたしでも、幽霊のたぐいは信じないわよ?」
「なにか、神様みたいなものを信じているのかと」
「大きくて見えない力は、あるとは思うけれどね」
「なんとなくだけど。あなたは自分で壊したものを、もう一度再生できる力があるものに憧れているのよね?」
「・・・・・・・びっくりした。いつのまに言葉をまっすぐに、伝えてくれるようになったの?」
「そうね。そういう破壊は自分で、
再生できる能力がないと。私達では無理だわ、あなたの神様にまかせるべきよね」
「恥ずかしい。わたしったらひとりで」
「どうして。いいじゃない、あなたったら私の中に調子よく足を踏み入れてきて。私だけなんて不公平よ」
「そう?それは失礼しました」
「いいわね、とても新鮮な気分。あなたはいつもこんな気持ちで私をからかっていたの?」
「ロマンチックを味わうには、ムードがないでしょ。ここは真っ暗だし、寒いし、まるでお化け屋敷みたいだし・・・」
「あなたを近くに感じるじゃない。でもどうしてかしら、宇宙服を着て抱きしめているのに」
「・・・わたし、理由を知っているわよ」
「ほんとう?」
「みつめられるとね、あなたの温度を思い出せるから。直接抱きしめなくても熱いんだわ」
「そう。だから体は寒いのに、この前と同じ・・・・・っ」
「祈りの歌より、あなたの目を見ていた方がいいと思わない?」
「―――キスした後、じっと見ないで」
ほんとうはキスなんかしていない。
顔を覆う、分厚いガラスと唇が重なり、カチンと音を鳴らすと私たちを隔てていることを意識させた。
でも、彼女はキスするように同じことをして。
目を閉じて、くちびるを可愛く立てて、私の右肩に手を掛ける。
宇宙が神様だと面白いことをいうけれど、ひとひとりみんな持っているちからなのかもしれない。
だって、一度壊れたこころが、こうして彼女の触れないくちびるで息を吹き返したのだから。
私の充足感が、彼女の言う真理にしたがって大きく羽ばたくのだとしたら。
こんな特別なひとが、みなにも訪れることを願う気持ちがいつのまにか宿ってほしいと。
今ならこころからそう思える私がいた。
「わたしの曲?しらない国のことばね」
「歌詞を私の国のことばに変えて作ってみたの」
「意味を教えて?」
「いつかね」
特別で可愛い愛しいひと、あなたを大切に思う気持ちが、誰かを救うことができた。
いつか、このことばをあなたに言いたい。
でも まだだめ まだもう少し
いつかあなたに胸を張っていえるそのときまで
そのとき、共に語り合うの
私達の素敵な思い出を何度もあなたと
あの人たちの幸せな瞬間を何度もあなたと