ジュエルという女性は、実に興味深かった。
私が今まで初めて出会った女性だった。
私達が所属するスカイクルーを運営している衛星機関に勤めていたものの、
わざわざ今一番危険なこの訓練学校にきたという変わり者の第一印象は・・・・
いや、口にするのも頭が痛くなってくる。
あの気だるそうないつものそぶりからは、計り知れないが。
人間には刺激を求めると言う本能があるけれど、そういった激しいものが彼女にもあるのかしらと私はひとり、
勝手に想像してジュリアをみつめた。
個人的に、職歴とは別に気になる点が三点あることをみつけた。
まず、ルームメイトの彼女をわかりやすいくらい毛嫌いした態度をとっているということ。
訓練学校といえど、それなりの年齢を達していないと入学はできないわけだが。
ジュエルは私達と同じ年代なのに、ひどく子供っぽい。
なのに、子供だから許してという大人のいやらしさがない。
毛嫌いはするが、訓練に支障はない。自分の気持ちを隠さずに、コミュニケーションを取れてしまう。
これは本当に不思議だった。
次に彼女は意外に熱い想いを持つ人だったということ。
知りたいことを見つけたら、とことん調べる。
本人はわかっていないつもりだろうけど、私達が上官の質問に対して答えられないと。
その後、必死になって情報をかき集めている姿を見つけた。
そしてまた、いつものように、気だるそうに。
何気なく質問についての話題が出ると、それもまた何気なく答えを教えてくれた。
もちろん、彼女が調べていた姿をみかけたことを、私は追求しなかった。
自分の狙撃道具については、使っていれば慣れるだろうと調べもしないのに。
冷めたフリをしているが、自分のためじゃないときの方が、熱くなるのかもしれない。
最後はあの彼女についてだ。
毛嫌いのそぶりを見せている彼女に、自分に似ているからと理由がそうさせているらしいが。
はたして、そうなのだろうか。
私にはどうも、それが本心でないような気がしてならない。
感情に対して正直な彼女だが、本心に対しては正直にはなれないこころが見えるように。
そこに人間らしい一面が見え隠れしているような。
そんな、一筋縄でいかない彼女に、なぜか私は再び自分を重ねていた。
以前の後輩のように、まだ仲間の素晴らしさを何も知らない人のように。
そんな私はどうやら、ついジュエルを甘やかしてしまうようだ。
「ただいま」
「おかえりなさい、またあいつの訓練に付き合っていたの?」
「同じ機関に二年所属しいたとしても、圧倒的に戦闘訓練が足りないわ」
私はふうっと、ため息をついてベットに腰掛けた。
汚れた上着だけ脱ぐと、私はそのままの状態で倒れていった。
ふふっと、つい嬉しそうに笑ってしまった顔を彼女に見られないように、つい隠してしまったのは、なぜだろう。
楽しみを独り占めしているからかしら。
それともきっと彼女がジュエルに対して、色々複雑な想いでいるのを変に勘違いされたくないから?
どうやら、私は少し癖のある後輩を育てるのが好きらしい。
自分の好みなんて、今まできちんと自覚していなかったけれど、これは彼女の星の図鑑を見ながら、
名前と照らし合わせてきゃあきゃあと騒ぐ楽しみと、同じ感覚だろうと思う。
私は寝ながらズボンを脱いで、そのまま布団にもぐりこんだ。
普段はこんなことしない。今の私はまるで、思い切り遊びつかれた子供のようだ。
楽しいことに終わりを告げると、あとはほかの事は忘れて、疲れて眠るだけ。
えっ・・・と、息を呑むような声が後ろから聞えてきた。
そうね、私もきっと。昔の私がこんな姿をみたら驚くわ。
その昔を知っている彼女の視線が、ずっと向けられていることを
なぜか気にならないくらい、私は充足感に満ちていた。
少し息を吸って、思い切り吐いてみると、心地よくてついやわらかいため息が出る。
突然、がたんっと、大きく椅子を動かす音がした。
私はほとんど眠りそうな頭だったので、普段気にならない大きな音にびくりと耳を立てた。
振り返ると、あまり遠くない彼女が駆け出しそうな勢いでこちらに向かってきた。
まばたきを大きくニ、三回。
四、五回目の時にはすでに、彼女は私がかけていた布団をめくり、自分の身体を滑り込ませていた。
驚いてその様を見ていると、その勢いのまま両手で私の顔を掴んで、今度はゆっくりと何か衝動を
抑えつけるような顔つきで顔を寄せてきた。
キスをされる。それも、すごく激しそうな。
理由はわからなかったけれど、とっさに頭に浮かんできた。
私はなんとなく、こういう時どう自分の気持ちを伝えたらいいかわからなくて。
彼女の服のすそを思い切り掴んで、目を閉じて、激しい衝動を突きつけられる精一杯の答えを彼女に伝えた。
拒否ではないの、ただ、突然で驚いてしまっているだけなのよ、と。
「・・・・・・・・・・ふふっふふふっ」
「ちょっと」
「ご、ごめんなさい・・・」
「笑わないで」
「だって、小さくわたしの中ですそを掴んで。すごく可愛いから」
「当たり前でしょう?すごい顔して飛び込んでくるひとがいるんですもの」
「あなたも、すごい顔して目をつむってた」
「もう、なんだっていうのよ」
「やっぱりやめたわ」
「え・・・」
「期待した?」
「別に・・・何をするのか怖かっただけよ」
「うそつきー、意気地ないしー」
「からかってせいせいした?さっきは機嫌が悪かったみたいだけど」
「まあ、それになりに」
「そう。なら、おやすみなさい」
「こっちを向いて寝たら良いじゃない」
「どっちを向こうが、私の自由でしょう」
「そんなことして・・・。やっぱりすればよかった」
「・・・・・・・どうしてやめたの?」
「だって、あんまりにもムードがないもの。こんなのが初めてちゃんとしたキスだなんて嫌よ」
「あれだけ膨大な詩集を読むと、そんなに純情になるのね」
「あなただって、私がまえに布団に入ったときに眠ってなかったみたいだけど?」
「それは・・・・今日はそれでいいわ」
「ねえ、なんでもいいから、話しましょうよ」
「いつも話してるじゃない」
「やっぱりわたし達、もっと過ごしたい方を選択してよかった。ね、そう思わない?」