後ろ髪を惹かれるように、私は時折、彼女のふわりと揺れる髪をみつめるのだが。
何気ないふりをして盗み見るその輝きは、どうしてか私を乱していく。
特に食事中などはいつも二人向かい合わせで、食事を取るので盗み見てというわけにはいかない。
まして、これを気づかれてしまっては、
彼女が茶化すことは確実なので、決して自分からも言わないだろう。
そんなときは、そらの見える窓ガラスを見つめながら食事をするのだ。
暗く、星がまたたいているその窓は、黒と白い輝きの反射で彼女の髪のつやまでよく見える。
そんな私を見て彼女は決まってこう言う、やっぱり星が好なのね、と。
そう、私は星が好きだ。
父の家系はみな、軍人の家系であるがゆえなどと。
そんな理由ではなく、私はこのそらに一番近い場所を選んだ。
それが、スカイクルーだ。スカイクルー訓練校は過酷だが、あのそらを一番近くで飛べるのなれば、
たとえ地上から離れても、十分価値あるものだと。誰もが宇宙にこころを奪われた者がこうして
正規のスカイクルーになるべく、母星の衛生軌道に浮かぶ訓練校に集っているのだ。
軍人でありたくないなどと思ったことはない、
基本私は郷に入れば郷に従えの概念で人生を送ることが苦痛ではないのだ。
その中で、なにか自分自身が輝けるものさえみつかれば、私はきっと従うだろう。
しかし、予想外のことが起きた。
彼女に出会ってしまった。
向かい合わせのはずなのに、目と目を合わせない私との食事に彼女は慣れてしまったのか。
私の隣に座っているカレッタと談笑して食事をしている。
次第に彼女はあの子の方へ向きを変えて、窓ガラスにはもう髪は映らなくなっていた。
最近思うのだ、一瞬あの艶やかさを見逃すと。次、見つめればいい。
次はあるのか?そもそも、彼女は一緒にスカイクルーになれるのか、
軍人でいつ続けるのだろうか、私の側にいるのだろうか。
繰り返す無意味な螺旋の問いに、暗い星空に飛びたいと想いを果てた私が、
星の輝きでさらりと髪を揺らして微笑むしぐさを、
こうして盗み見ながら目の前の輝きにこころを奪われていく様にきっと誰もが笑うだろう。
「また窓のそとを見ているの?あなたは本当に星空が好きね」
彼女はいつまでも続くかと錯覚してしまう世界の中で、私のこころを知らないまま微笑みかけていた。
「カレッタ、あの人を知っているの?」
「あ、はい。よく挨拶をするんですよ」
「名前はなんて言うのかしら」
「いいえ、部隊長さん。名前は知らないんです」
「知らないのに、今みたいに手を振って挨拶をするの?」
「たまたま、私がトレーニングルームにいると。
たまたま、いつもあの人がトレーニングを終えて、出て行くんです」
「そう」
「・・・・本当は、もうたまたまじゃないんです。なぜだか、会うと少し嬉しいんです」
「でも、名前は知らないわけね」
「照れくさくて。素直になれのかも」
「あなたはいつだって素直じゃない。次からは名前を聞くことね」
「そんなこと・・・」
「最近のあなたを見習わなきゃと思うの。素直で真っ直ぐ、
恐れよりも事実を伝えるために、できないことはできないと。正直に言えるあなたを尊敬するわ」
「いやだ、部隊長さん・・・・照れくさいです」
「――ちょっと」
「なによ。ほら、早く食べてしまいなさい、次の訓練メニューの時間まであと少しよ」
「あーあ、わたしにもイチゴミルクのような甘酸っぱいものが欲しいわ」
「なによそれ」
「わたくし、買ってきますね」
「まだ訓練メニューが残ってるんじゃなかった?気を引き締めて下さーい」
「悪かったわ。たしかにそうよね」
「そうじゃなくて・・・本気で言ってるの?」
「何が言いたいわけ」
「買ってきましたよ・・・・あれ」
「わからないの?」
「さっぱり。はっきり言ってくれない?」
「あの・・・・」
『なによ』
「いいな、二人とも。わたくしもそんな風に、あの人と素直にお話してみたいです」