「いい紙ね、星のそらですごしていた時は再生紙ばかりだったわ」
「これも、再生紙だと思うけど」
「あら、天然資源の配合が多いんじゃない?」
求人紙を目の前に、私は淡々と答えた。
この会話からすると、からかっているのは私みたいに聞こえるかもしれないが、
私が彼女をからかっているのである。
なぜだか、昨日の夜にまっすぐにみつめられていた視線が、
いくつも張られた薄っぺらい紙に向けられているせいだ。
私は見つめあうのは苦手だが、どうやら見つめた先に、彼女が先に照れくさそうに視線をずらしたあと、
みつめるくせがあるらしい。
たぶん、そのときの表情が気に入っているのだろう。
あれは何度も私を惹きつけるから。
「何考えているのよ」
「昨晩のこと、なんとなく」
「え!昼間からそんなこと考えていたの!」
「少し照れくさいわね」
「キスしただけじゃない・・・」
そう、昨夜のように視線を少しだけずらして。
私はどうしても、見知らぬ熱を抑え切れなくて、なにかに熱を逃がした。
彼女は私の手に触れられると、少し目線をこちらに向けるが、やはりまた、張られた求人に目を向ける。
仕方ないことだと思う。
さまざまな組織として成り立っていた研究施設は、いったん白紙に戻されて。
すべての施設は一度この星に撤収することになった。
残った施設はなんと、観光施設にすると、
大胆なことを発案したのはなんと、世界でも極力おとなしい国の代表者。
そう、目の前にいる彼女の国だ。
私たちは正規クルーを目前に解雇され、なおかつあきらめずに使命を全うしたすばらしい兵士として迎えられた。
ただ、私たちにとってはそんなことはどうでもよくなってしまっていて、
こうして、組織解体後の特別求人報告を故郷にある施設元本部で眺めている。
ここにあるすべての求人は、ほとんど兵士能力とは関係のないものとなっている。
私達はすっかり、腑抜けになってしまったのか。それらを口をあけてみながら、時には冗談をいいながら、
穏やかに次なる指名を探していた。
「シュチュアート、あなたは探さないの?」
「あなたのそばにいれればいいと思っているの」
「・・・・・・そんな人だった?」
「たぶん、もともとこんな人だったのよ」
とりあえず、私は体力と精神さえ健康であればだいたいの仕事は成せると考えていたので、
彼女ほど真剣に考えていなかった。
懸命に仕事をしていれば、いずれ自分のやりたい使命にたどり着けるものだと。
前回の戦いでこころのどこか、見えない場所に刻み込まれたから。
私は何気なく、求人を指差した。
なぜそれを指したのか?
そう、これだってきっと振り返ればよかったと何かも幸せになれる。
そんな強気で暢気で、やわらかな気持ちが私のなかに根付いていることにこの星に降り立った今、確信した。
「テーマパークの求人?」
「いいじゃない、これで」
「あなたにできるの、無愛想でしょう」
「警備でいいわ。あなたはどう?」
「そうね・・・・・客の乗り物を光の棒で移動させるのは、少し憧れがあるわ」
「ふうん。前に、宇宙船の誘導兵士にも言っていたわよね」
「そらの上でも星の上でも、わたしはわたしだもの。あなたはどうなの?」
「私も変わらないのかもしれない」
「あなたは自分の戦いを続けるの?」
「続けるわ。私はあたたかな気持ちを持ちながら、誰かを守ることを続けたい」
「素敵ね」
「惚れ直してくれるとうれしいのだけど」
「なにいってるの。わたし、あなたに一度も失望したことなんてないわ」
「そ、そう」
「ほら、その表情」
「からかわないで」
「わたしはざんざん、からかわれたわよ?」
「マーリー。ひとつ、約束をしたいの」
「どんな?」
「共に生きてくれることを」
「喜んで」
「よかった・・・」
「ただの約束じゃないわよ?果たすためだけの、目的にならない約束よ。
約束を果たそうと生きている間、その間で、どこまでも深く絆を作ることが、わたしの望みなの」
「仲良くなることが、目的・・・」
「そばにいても。離れても、わたしはあなたを」
「・・・!また、あなたいつも突然するんだから」
「そばにいたい。そばにいるわ。約束する」
輝く星は、目の前に広がることはもうなくなってしまい。
空に浮かんで見上げることになってしまったけれど。
目の前に青空に照らされた、艶やかに美しく輝く髪をみつめられることに幸せを感じながら。
わたしは彼女にもう一度、恋をした。
約束を誓い合った私達。私達はもう一度、歩き出した。